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雑誌『医薬経済』
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    03月15日号
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Beauty is in the eye of the beholder .
日本語で言えば「蓼食う虫も好き好き」。直訳すれば「美は見る者の目の中にある」。人それぞれによって物事の見方は異なります。さまざまな方々から、さまざまな視点・論点を示していただくことで、「話題」となることをめざします。

死の質について考える〜QOD〜



  我が国は、一生のうち2人に1人ががんになる「がんの時代」を迎えた。

 がんになった人は、そのうち6割は治るが、4割は命を落とすといわれており、2002年に設立された静岡がんセンターでも、年間2000人の患者さんの治癒を達成する一方で、1000人を看取っている。同病院では、50床の緩和ケア病棟を有し、患者さんの尊厳を重視した「死の質(Quality of death:QOD)」を高めるための緩和ケアが実践されている。

 がんの時代に加え、少産多死の社会を迎えた我が国で、これから死を迎える人たちに必要とされる「QOD」とは何なのだろうか。スウェーデン大使館商務部主催「SWEDEN LIFE SCIENCE SUMMIT」で行われた、静岡がんセンター総長 山口建氏による講演から探ってみた。

よろず相談、情報処方―静岡がんセンターでのユニークな取組み

 そもそも「質の高い死」とはどのような死なのだろうか。

 米国医学研究所の「終末期ケアに関する医療委員会」は、「患者や家族の希望にかない、臨床的、文化的、倫理的基準に合致した方法で、患者、家族および介護者が悩みや苦痛から解放されるような死」と定義している。

 この定義が示すように、「質の高い死」は患者や家族がもつ価値観や信念によって多種多様である。その人らしく尊厳のある死を迎えるために高めていく「QOD」の内容もさまざまだ。そんななか、すべてのがん患者さんが共通して抱える悩みがあると山口氏は言う。

 それは、「診療上の悩み」「病気による苦痛」「心の悩み」「くらしの悩み」の4つだ。

 「診療上の悩み」とは、治療の選択などのこと。「病気による苦痛」は、薬による副作用や後遺症などの身体的な苦痛のことだ。「心の悩み」は、生き方や生きる意味に関することなどで、「くらしの悩み」はお金、家族の問題、社会とのつながりなどが挙げられる。

 静岡がんセンターでは、患者さんが共通して抱える、これら4つの悩みを解消し、QODの向上を目指すための取組みが行われている。

 そのひとつが「よろず相談」だ。その名のとおり、病気のことから経済的なことまで、ありとあらゆる悩みについて、専任の医療ソーシャルワーカーと看護師が受けとめ、アドバイスなどを行っている。相談の受付方法も、利用者の利便性を考え、対面、電話、ウェブなど複数のアクセス方法を用意しており、利用者は年間1万人を超える。寄せられた患者の声は小冊子にまとめられ、同じ悩みを抱える患者や家族と共有できるようにしている。

 もうひとつは「情報処方」だ。薬の処方は医師が行うものだが、「情報処方」には、患者さんの治療に関わる多職種が携わる。医師、看護師、薬剤師などがそれぞれの立場から、患者さんにとって必要な情報を持ち寄って「処方」する。そして、患者さん個々に合わせて処方された情報を「調剤」して取りまとめることで、情報の過不足によってもたらされる患者さんの不安な気持ちを和らげるのだ。

 山口氏は言う。「QODというのは、患者さん個々によって異なり、非常に難しい概念だと思います。私自身は、患者さんとそのご家族が、最期のときを、後悔や心のしこりを持つことなく迎えられることだと考え、これからも患者さんのQODを高めるための方法を模索し続けていきます」

誰もが安心して、後悔のない最期を迎えられる社会に

 QODを考慮した終末期は、がん患者さんだけのものではない。老衰を含めた、がん以外の疾患を有する高齢者の終末期においても、考慮されるべきものだ。しかし、我が国では一般的に「死の質を高める」ということに対する関心が低く、こうした考えもあまり浸透していないらしい。

 それを端的に表しているのが、2010年に英誌「エコノミスト」が40ヵ国に対して行なった「QOD」に関する調査の結果ではないだろうか。評価は@終末期医療の基礎的な医療環境A終末期医療の利便性B終末期医療にかかるコストC終末期医療の質、の4つの領域について行われた。

 この調査によると、世界一の長寿国である日本の「死の質」は、40ヵ国中23位にとどまっている。その原因として指摘されているのが、日本には終末期医療に対する公的支出や政策が少なく、緩和ケアが受けづらいうえに、患者の個人負担が大きいことなどだ。

 こうした医療制度の問題に加え、老衰を含むがん以外の疾患を有する高齢者の場合、死期を判断することが難しいことも原因として挙げられる。死期が判じられないとなると、いつまで続くか分からない緩和ケアに、どれほどの経済的負担がかかるかの見通しも立てにくい。患者さんや家族には、お金が尽きたら、それまでの手厚いケアを受けられなくなるかもしれない、という経済的な不安が常につきまとうことになる。こうした事情が重なり合い、患者さん本人や家族が死に向けた明確な決断を下すことが難しいため、QODを高めにくくしているようだ。

 死を間近に控えた人や、その家族や周囲の人たちが、死に向けて不安な気持ちを抱かず、満足のいく時間を過ごすための指標「QOD」。まずは、認知度が高いとは言えないこの概念の浸透が必要と言えそうだ。同時に、誰もが安心して最期を迎えられる社会を実現するため、QODの向上を目指した医療を提供できる施設と、医療制度の整備が求められる。(育)
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